【Maya】品質を保証するチェックツール

この記事はMaya Advent Calendar 2025の23日目の記事です!

チェックの厳しい戦国武将というと石田三成。監督して行った太閤検地は正確で、後の徳川幕府にノーチェックで引き継がれました。
どうも、クリーク・アンド・リバー社 COYOTE 3DCG STUDIO テクニカルチーム 戦国大好き人間の中林です。

忙しい時ほど、提出物の見落としは起こりやすいものです。
その『小さな見落とし』を確実に拾い、会社の信頼を守ってくれるチェックツールがあります。
ほんの数秒のチェックが、あなた達の仕事を大きく助けてくれます。

チームの信頼と効率を守るチェックツール

COYOTEスタジオは受注制作が中心です。
クライアントから提出物で見られるポイントは大きく分けて次の2つ。
1・見た目のキレイさ。
2・仕様に沿ったデータのキレイさ。
1は当然ですが、ゲーム開発では「動くデータ」である以上、2の品質も重要です。
外見がどれだけ美しくても、ゲーム上でキャラが壊れてしまっては意味がありません。
僕自身、ウェイトのインフルエンス数の設定ミスで、ゲーム上のキャラがウニみたいに動いたのを見て驚いたことがあります。

クライアントからは仕様書が渡されますが、それに合わないデータを提出し続ければ、信頼は損なわれます。
チェックツールは、そんな信頼を守る『盾』になる存在です

さらにこれは受注制作だけでなく、開発会社でも同じです。
昔いた会社では、モデラーとモーションがデータの不整合でケンカになる……なんてこともありました。
1・モデラーがジョイント名を間違えて提出
2・モーションが指摘
3・モデラーがローカルで修正し再提出
4・しかしまたジョイント名を間違える
…1〜4の無限ループ この繰り返しに後工程のモーションが怒り、物理的にも距離が近かったため大騒ぎになったことを覚えています。
前工程のミスが後工程の最後に見つかると、全体がやり直しになるケースは珍しくありません。

当時の会社にはチェックツールがありませんでした。
この事件が、後に僕が「チェックの仕組みは必要だ」と強く考える原点になりました。

しかし今、COYOTEスタジオには 最終データを提出するCoyoteチェックツールがMayaに備わっています。

リーダー陣を中心に「信頼できるデータの重要性」を理解しているメンバーが積極的に使っています。
誰でも簡単に、重要なチェックを高速で行えるおかげで、クリーンなデータを安定して提出できています。

現場で一番使われているCoyoteチェックツール

COYOTEスタジオでは自社ツールを開いた時や実行時にツールの使用回数を計測してます。
その使用回数を元に作業時間の計測を、仮に手動で作業したらの時間、ツールの使用で発生した時間、この2つの差で削減された時間を割り出しています。
直近の2025年10月の結果はこんな感じです。

手作業時間 ツール処理時間 削減時間
合計時間 338人日4時間37分 3人日1時間42 335人日2時間54分

MELなど計測できない部分もあるので正確ではありませんが、この結果を下回ることはありません。
そんな中で最も使われているのがMayaのCoyoteチェックツールです。

チェックをしたい項目をダブルクリックすることで、緑チェックと赤バツのマークで簡単に確認ができます。
また、再生マークをクリックすると一気にまとめてチェックをすることもできます。

手作業時間 ツール処理時間 削減時間
合計時間 163人日6時間33分 1人日2時間 162人日4時間33分

2025年10月のCoyoteチェックツールは49人592回起動されています。全項目の合計チェック回数は 28,686回です。
全体の人日削減335人日のうち、約半分の162.5人日を『Coyoteチェックツールが生み出した時短』で占めています。
仮に手動でチェックしていたら163人日以上かかる作業が、ツールなら わずか1.5人日です。

つまり、1.5人日短縮したのではなく、『162.5人日短縮している』 という点が重要です。

例えば、72本のジョイント名を人間の目で確認したらどうでしょう。 1本10秒でも 720秒=12分かかります。
「そんなにかからない」「もっとかかる」議論は不要です。
チェックツールなら 1秒未満で72本全部の確認が終わります。
人間が1本確認する間に、チェックツールはすべてを終わらせています。

時短において手作業は、チェックツールに絶対に勝てません。

ミスを防ぐことは『ブランド価値』を守ること

丁寧に整ったデータは、クライアントに安心と信頼を与えます。
外見だけでなく、中身まで整ったデータは「このスタジオは丁寧だ」という印象を自然に作り上げます。
毎回の丁寧な提出は、会社にとっての『信頼という財産』を積み上げます。
Coyoteチェックツールは、その積み重ねを静かに支えてくれる存在です。

そして、クオリティの高いキャラモデルや背景は会社の『顔』です。
Coyoteチェックツールで生み出した時間を見た目の確認に回すことで、さらなるクオリティを高めることができます。

結果として「ミスを減らすこと=スタジオの価値を高めること」につながります。

再提出がなくなる=時間が増える

ゲームデータで最も時間を奪うのは、ミスによる差し戻しです。
Mayaでモデルを仕上げても、その後にFBX化 ⇒ エンジンインポート ⇒ コンパイル ⇒ 検証……、と工程は続きます。

最後の実機確認でエラーに気づけば、その工程が丸ごとやり直しになることも珍しくありません。
再提出は、チーム全体の時間を大きく奪います。
ですが、Coyoteチェックツールで事前に検証しておけば、この「無駄なやり直し」をほぼほぼ避けることができます。
その分の時間を、品質向上のために使うことができます。

改めてCoyoteチェックツールの紹介

Coyoteチェックツールは、大きく分けて、本体+多数のモジュール で構成されています。

本体で全体設定を行い、チェックの中身はPythonモジュールで個別に管理します。

チェック内容のSetting

チェック内容によっては矛盾した設定班による不要チェックが発生します。
同じキャラ班でも、プロジェクトによって仕様が異なることも珍しくありません。
例:
・Joint Orient
・Joint Rotation

仕様上、どちらか片方にしか値を入れないケースがあるため、意味のないチェックは簡単に非表示できます。

班ごと、プロジェクトごとに設定を変えられる点は非常に重宝しています。

モジュールファイルについて

チェック項目1つにつき、Pythonファイルが1つ対応しています。
モジュールファイルと呼び、全体で約50個のチェック項目(非多様頂点・非多様エッジ・ラミナフェースなど)が初期搭載されています。

本体も重要ですが、この数多くのモジュール群こそがCoyoteチェックツールの『強さ』の源だと感じています。

モジュールファイルは簡単に追加できる

プロジェクトごとに仕様は異なります。
オブジェクト名やジョイント方向などは典型例です。
そんなときはテンプレートを基にPythonで専用モジュールを追加するだけ。
Type名がフォルダ名と連動しているため、関連ファイルも整理しやすい構造です。
チェックツールは最終的に TrueかFalse の二択表示。
初心者でも少しPythonが分かれば追加できるため、新人研修用としても活用しています。

自動修正(Fix)も可能

一部のモジュールには自動修正機能があります。
エラーがある場合、【FIX All(Select)】ボタンが有効になります。

動画では「Joint Orient」に数値が入っているものチェックでリストアップしています。
【FIX All】ボタンの実行で「Joint Orient」の値を0にします。
こちらが0になった分は「Rotate」に加算されて、向きが壊れることはありません。
こちらも、1つ1つのチェックの中身が簡単なのでFixの内容も初心者でもPythonで作れるものが多いです。

チェック

チェックツールは決して派手ではありません。
しかし、ひとつひとつのデータを丁寧に整えチームの信頼を長く支え続ける『静かな力』です。

実は、Coyoteチェックツールは昔は使用率1位ではありませんでした。
しかしキレイなデータを提出する文化を大事にするリーダー陣たちが積極的に活用し、
ここ1年ほどでスタジオ内で最も使われるツールになりました。

小さな積み重ねが、大きな評価と安心につながる。
その『静かな力』を、これからも大切な資産にしていきたいです。

明日12/24は Norizgrooveさんの記事です、おたのしみに!

nakabayashi nobukazu

12月11日(木)のTA Nightというイベントで登壇予定。
TAの歴史と未来について話します。
https://www.creativevillage.ne.jp/category/crv_event/168205/
ブログでTAに興味を持った人は是非、参加してみてください。

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